鹿児島県の東南部、大隅半島の志布志湾に面した大崎町。温暖な気候と豊かな自然に恵まれた、「日本のフロリダ」とも称されるのどかな街です。今回は、大崎町に3つある焼酎蔵のうち2つの焼酎蔵と、大崎町の豊かな自然を堪能できるスポットや、生産量日本一を誇るフルーツ・養殖鰻などの特産品を味わう蔵旅を紹介します。
個性豊かな2つの焼酎蔵巡り
良質な水×伝統と革新の技で、多彩な酒造り
―天星酒造株式会社―
明治34(1901)年創業、120年以上続く歴史ある焼酎蔵・天星酒造にやってきました。蔵のある大崎町菱田地区は昔から良質な伏流水が豊富に得られたため、明治時代には30軒ほどの焼酎蔵が立ち並んでいたそうです。平成の銘水100選にも選ばれる「普現堂湧水」は県内でもトップレベルの超軟水で、余分なミネラルを含まないことから、天星酒造ではその特性を活かし、まろやかで口当たりの良い、飲み飽きしない焼酎造りを続けてきました。
出迎えてくれたのは、営業課長の髙屋総一郎さん。長崎県の出身ですが、焼酎の魅力にハマり、鹿児島大学の大学院で焼酎の原料となるサツマイモの香りを研究して、縁あって天星酒造で焼酎造りに携わるようになったそうです。商品企画も行う髙屋さんが、まずは最近発売した2つの新銘柄を紹介してくれました。
春限定の「Kesen to Haruka(けせんとはるか)」は、紅はるかと「けせん」の香りを融合した、フルーティーで清涼感のある芋焼酎。「けせん」はシナモンのような香りを持つ鹿児島の香木で、地元では「けせんだんご」という郷土菓子や、焼酎に入れて風味付けして楽しむ風習があるように親しまれてきました。「シナモンがケーキ作りなどに使われるように、サツマイモのフルーティーな香りは絶対にシナモンと合うと思っていた」と、商品開発に至ったそうです。ロックかソーダ割で飲むのがおすすめで、髙屋さんいわく、カレーにとっても合うんだとか!
志布志湾の夏の美しい朝焼けの絵をラベルに配した「一夏一会」は、毎年製法や原料芋が変わる夏限定の焼酎。ウイスキーやワイン樽で風味付けした原酒もブレンドすることで、複雑で奥深い味わいを表現していて、こちらもロックやソーダ割が「最高」とのこと。いろいろな銘柄を試飲しながら、割り方や合わせる食事のイメージを膨らませるのも楽しい時間です。
酒質からネーミングやラベルに至るまで、これまでにない新しい焼酎造りにも挑戦している天星酒造。代表銘柄の「天星」シリーズや、ロングセラーの「呑酔楽」はもちろんですが、焼酎の75%を占める水に絶対的な自信があり、大隅産の良質なサツマイモや、歴史の中で培ってきた醸造技術がベースにあるからこそ、新しい発想で様々な酒造りにも取り組めていることを教えてもらいました。
続いて工場見学です。工場の外には、芋切りの建屋から醪造りの建屋に延びる配管が。切って蒸して粉砕されたサツマイモが、ジェット噴射で配管の中を通っていくそう!「詰まったら残業確定。バケツリレーで芋を運びます。体バキバキになる」と髙屋さん。過酷な話ですが、おもしろおかしく話してくれるので思わず笑ってしまいました!
醪造りを行う一次・二次仕込みのタンクのある蔵は、設備はピカピカに磨き上げられていますが、建屋の梁などは歴史を感じる見た目。長い時間をかけて蔵の壁や梁に住み着いた蔵付き酵母が、醪の発酵にも良い影響を与えてくれているのだとか。
蒸留を経てできた原酒は、タンクや甕壺、樽で貯蔵され、ベストなタイミングで取り出し、ブレンドするなどして瓶詰めされます。石蔵の甕壺貯蔵庫で静かに熟成された焼酎はまろやかな味わいに、シェリー樽やバーボン樽などで熟成された焼酎は、樽由来の香りや色が原酒に移って個性的な味わいに変化していきます。
近年では、焼酎の仕込み時期以外でウイスキー造りも始めています。「菱田蒸溜所」として2022年に製造を開始しました。菱田の名水を使うことで、柔らかく滑らかな口当たりのウイスキーができるそう。焼酎造りで培った蒸留技術によって、蔵独自の風味の実現を目指すなど、焼酎蔵ならではのジャパニーズウイスキー造りに注目が集まっています。
商品としては2026年のお披露目を目指して、現在は樽4000本を貯蔵できる熟成庫を、志布志市の廃校だった体育館を活用して整備中です。旧・田之浦中学校のあるエリアは、寒暖差があるためウイスキーの熟成に最適とのこと。「田之浦の町おこしにも繋がれば」と抱負を語ります。
東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2023で最高金賞受賞、ならびに「Best of the Best」にも選出された、樽貯蔵芋焼酎「HOJUNバーボン カスクフィニッシュ」のシリーズと一緒に、熟成前のウイスキー・ニューメイクも試飲させてもらいました。「HOJUN」シリーズは、ほのかに芋の甘さが香るのに、風味はウイスキーで驚き!「次は炭酸水を持参して、ハイボールで試飲してくださいね!」と髙屋さん。
これからの商品展開も、とても楽しみです!
良い品質のものは、良い環境で作られる
―新平酒造株式会社―
海岸線にほど近い国道448号線沿い、開けたところに、近代的な白と黒の建屋と、レンガ造りの洋館が見えてきます。明治37(1904)年創業の新平酒造です。初代・新平金計佐が立ち上げた小さな焼酎蔵は、100年以上にわたってその伝統を守りながら、現在は4代目となる新平翼さんを筆頭に、“少数精鋭”の蔵人たちによる次世代の焼酎造りが行われています。
敷地内を歩けば、どこを切り取っても絵になるような美しさがあり、まるで美術館のよう。聞くと、「良い品質のものを良い環境で作ること」をとても重要視されていて、働く社員がどれだけ気持ちよく働けるか、誇りをもって働けるかを考えた造りになっているそうです。
事務所エントランスでは、豊富できれいな大崎町の水源をイメージした噴水が迎えてくれます。手造り蔵の中庭には、四季折々で様々な表情を見せてくれる植栽が整備されています。蔵人の皆さんも、休憩時間には敷地内を散策するなどしてリフレッシュしているそうですよ。
案内してくださるのは、蔵人の大和弘明さん。期待に胸を膨らませながら、まずは最新鋭の設備で焼酎造りが行われている「参の蔵」へ向かいました。驚くべきことに、この広い敷地で新平酒造の焼酎造りを担っているのはたったの7人。それも皆、営業や事務など他の業務も兼ねているそうです。
リサイクル率は日本一、また日本初の陸上競技専用トレーニング施設が開設されるなど、全国からも注目を集めるような先進的な取り組みを行う大崎町。設備なども常に新しいものを取り入れることを意識しているという新平酒造との共通性も感じました。少ない人数でも国内トップクラスの生産量を確保できるよう、効率的な製造工程と、人の目で一元管理できる設備が導入されていました。
「おそらく、通常の 10 分の 1 程度の人員で生産量を確保できていると思います」と大和さん。最新設備に、蔵に伝わる技や蔵人の経験、感覚が合わさることで、常に高い品質を保ちながらも、需要に応える供給量を確保できているということです。蒸留器には、神社でお祓いを受けた醸造祈願のしめ縄が巻かれていました。
さて、いよいよレンガ造りの洋館へ。「1つの芸術作品を作るように、焼酎を造る」というコンセプトのもと、「ART OF SHOCHU」と名付けられた手造り蔵。大きな扉を入ると、琉球畳が敷かれた和の空間が!BGMにはジャズが流れています。蔵の中も、焼酎蔵とは思えない造りに驚きました。
手造り蔵では、昔ながらの甕壺で仕込みを行い、代表銘柄である「大金の露」と、木樽錫蛇管で蒸留した「金計佐」を造っています。総ヒノキ造りの麹室をのぞいた後、障子戸を開けてもらうと…黒い天井、ベンガラ色の壁に、ツルッときれいなフローリングの仕込み部屋が登場!土間で長靴を履く蔵が多い中、裸足で入ることができる蔵は初体験です。
地中に埋められた甕壺で、醪が仕込まれます。あえてのフローリング仕様で、汚れたらすぐに拭き取るなど、微生物が働きやすい環境にするため、手間は惜しみません。
櫂棒で醪を撹拌するイメージも体験させてもらいました。醪が発酵しやすい温度に調節するため、定期的に醪の上下を返します。1甕約800リットルの重量があり力のいる大変な作業ですが、軽やかなBGMも相まって、蔵人の皆さんも気分良く作業に励むことができるのかもしれません。
ちなみに新平酒造では、大隅の契約農場で栽培されたサツマイモだけを使っています。新鮮なうちに蔵に運び、雑味となりうる傷んだ部分は丁寧にカットして仕込みます。栽培や芋切り作業は、地域の社会福祉法人の施設の方々にも手伝ってもらっていて、障がいのある方々の自立支援にもなっているそうです。
さらに先に進むと、タイル張りの部屋に木樽蒸留器が鎮座していました。まだ新しい木樽の杉の香りが漂います。木樽蒸留器の中には錫蛇管が通っていて、この昔ながらの製法で蒸留された原酒は、ふくよかな香りとまろやかな口当たりに仕上がります。蒸留後、甕壺で時間をかけて熟成され、昔ながらの奥深くどっしりとした味わいの「金計佐」が出来上がるのです。
最後に、テイスティングルームに到着。「大金の露」と「金計佐」を試飲させてもらいました。アンティークな設えの空間で、蔵人と会話をしながら、窓の外の中庭を眺めつつ、こだわりの焼酎をテイスティングさせてもらう贅沢な時間です。
「酒蔵見学以上の価値を感じてほしくて、今後も洗練された施設を整備していければと思っております。いろんなきっかけで、大崎町を訪れる人がもっと増えれば」と大和さん。旅から帰って晩酌する際には、蔵の歴史や蔵人の想い、大崎町の風景や空気感を思い出して、よりいっそう焼酎が味わい深くなりそうです。
温泉・体験・ショッピング|セントロランド・くにの松原キャンプ場・益丸海岸(大崎海岸)
国道220号線沿い、大きな2匹のカブトムシのモニュメントが目印のセントロランドにやってきました。宿泊(ホテルあすぱる)・温泉(あすぱる温泉)・レストラン・物産館(道の駅くにの松原おおさき)などの複合施設で、物産館には大崎自慢の鰻や黒毛和牛、黒豚、地鶏のほか、志布志湾で獲れたちりめん・しらすや、マンゴー、地元の特産品などが勢揃い。立ち寄りでも、宿泊を兼ねた滞在場所としてもおすすめのスポットです。
益丸海岸(大崎海岸)やくにの松原の散策、乗馬体験も楽しめるキャンプ場(くにの松原キャンプ場)や、桜や花菖蒲、紫陽花が咲き誇る大崎ふれあいの里公園も隣接しています。キャンプ場は電源ありのオートサイトや、道具備え付けで手ぶらでも楽しめるバンガローもあるので、物産館で食材を調達すれば手軽にキャンプを楽しめます。
「白砂青松100選」や「県森林浴の森70選」に選定され、日南海岸国定公園にも指定される益丸海岸は、ウミガメが産卵しに上陸する貴重な砂浜。春には潮干狩りを楽しむ親子連れなどで賑わうほか、志布志湾に沈む夕日や釣りなど、様々な楽しみ方ができますよ。
セントロランド
くにの松原キャンプ場
益丸海岸(大崎海岸)
曽於郡大崎町益丸226-1
TEL:099-476-1111(大崎町役場商工観光課)
観光|都萬神社(妻の宮)
同じく国道220号線沿いの縁結び神社に立ち寄ってみました。「日向五社大明神」の1つ、都萬神社は「妻の宮」とも呼ばれ、縁結びや安産などにご利益があると言われています。地元でも一の宮として、初詣や夏越祭では多くの人が訪れるなど、親しまれている神社です。
ご祭神は木花開耶姫命で、伝説では母乳の足りない婦人がこの神社にお参りしたところお乳が出るようになったことから、「お乳の神様」とも言われているそうです。
書き置きの御朱印もあるので、御朱印巡りにもおすすめです。
都萬神社(妻の宮)
グルメ|うなぎ処 栄・千歳鰻
お昼ご飯は、鰻加工販売を手掛ける千歳鰻が2022年にオープンしたばかりの鰻料理専門店・うなぎ処 栄へ。職人が毎日1尾ずつ丁寧に捌き、手焼きして仕上げる自慢の鰻を思う存分楽しめます。
鰻の大きさや厚さによって絶妙に焼き加減を調節し、ふっくら焼き上げるのがこだわり。抜群の脂乗りで、プリッと歯ごたえもありながら、皮目はとろとろ、身は柔らかくふわふわ。うなぎ本来の旨味を味わえる白焼き、香ばしい蒲焼き、どちらもおすすめです!大葉と梅肉で鰻を巻いて、特製塩で味付けした白焼きの天ぷらも絶品です。
近くの加工場・千歳鰻の直売所では、白焼き、蒲焼き、鰻の肝なども購入できます。全国一の養殖生産量を誇る大崎町の鰻は、温暖な気候と良質で豊富な地下水、養鰻業者の方々の手間暇の賜物です。栄養豊富な大崎町のごちそうで、パワーチャージしてくださいね。
うなぎ処 栄
TEL:070-7574-0319
営業時間:11:00~14:30
定休日:毎月15日、日~火曜
千歳鰻
TEL:099-476-2770
営業時間:9:30~17:00
ショッピング|道の駅野方あらさの
最後にやって来たのは、地元の農畜産物や加工品を販売する道の駅野方あらさの。野方ICに隣接していてコンビニも併設されているので、24時間365日、地元の野菜や特産品、焼酎などを手に入れることができます。
お目当ては、大崎町のマンゴーやパッションフルーツを使ったアイスプリン「カタラーナ」。地元で人気のレストランのシェフが手掛けるシリーズで、地元の卵を贅沢に使った濃厚でミルク感のあるプリンは、解凍の具合でシャーベットのような食感を楽しんだり、アイスクリームのような舌ざわりを楽しんだりできます。
大崎町は、パッションフルーツの生産量が日本一!完熟マンゴーも県内一の生産量で、全国でもトップレベル。太陽の恵みと生産者の方々の愛情をたっぷり受けて育った極上のフルーツを、おいしいスイーツで気軽に味わってみては。ちなみに地元ではパッションフルーツの実を半分に割って、焼酎を注いで食べたりもするそうですよ!
道の駅野方あらさの
TEL: 099-471-0165