酒器にこだわる楽しみ
鹿児島の繁華街・天文館に、酒器と一緒にお酒を楽しむことをコンセプトにしたバーがあります。「切子と酒器を愉しむBar すけ」は、2020年にオープン。その名の通り、薩摩切子や全国の切子グラスを中心に、薩摩焼、薩摩錫器などの伝統工芸品や、作家による創作酒器をそろえ、飲み方や好みによって、おすすめの酒器で本格焼酎を楽しむことができるようになっています。
「中身だけでなく、外身を楽しむ店があっても良いのでは」とオープンに至った経緯を話してくれた店長の宮之原俊平さん。「作品として楽しむのはもちろん、酒器を変えることで、同じお酒でも違った味わいに感じるなど、新しい発見がある」のが、酒器のおもしろいところだと言います。
色や形、質感の見た目だけでなく、肌ざわりや重量感、香り、焼酎が注がれた時の変化など、酒器が五感に与える影響はさまざま。同じガラスの酒器であっても、薩摩切子・江戸切子・天満切子では見た目の雰囲気や舌ざわりがまったく異なります。同じ形状の酒器であっても、ずっしり重く、中身もキンキンに冷える薩摩錫器と、軽く滑らかな手触りで、木の香りも楽しめる屋久杉カップでは、飲んだ時の感覚は異なります。「いつもの酒が2倍おいしく感じる!」と驚く人もいるという宮之原さんの話も納得です。
来店客には、飲み方に合わせた形状の酒器を薦めることもあれば、その日の気分や好きな色、焼酎のラベルに合わせたデザインなどで酒器を選んでもらうこともあるそう。「選ぶ酒器で、その人の気分や性格などが垣間見えるのもまた、酒器の魅力」だと宮之原さんは教えてくれました。
酒器の棚には、かわいらしいイラストやアニメキャラクターのデザインをあしらった酒器、見たことがない色合いや形状の酒器なども並びます。思わず「触れてみたい」と思わせるような伝統工芸品の美しさ、そして既成概念を覆すような作品の数々。知れば知るほど深く魅力的な酒器の世界が広がります。
鹿児島における酒器の歴史とその特徴
鹿児島の焼酎文化とともに、酒器も発展してきました。その歴史とともに、素材による特徴の違いをご紹介します。
薩摩焼(黒薩摩・白薩摩)
約400年以上の歴史を持つ「薩摩焼」。薩摩藩主・島津義弘公が朝鮮から陶工を連れ帰ったのが始まりと言われています。鉄分の多い鹿児島の土などを使った素朴で実用的な「黒薩摩」は庶民が使う日用品として、白地に華やかな絵付けや貫入(細かいヒビ)が入った「白薩摩」は藩主のみに使用が許された焼き物として、使い分けられてきました。
窯元ごとに様々な形状の酒器が作られていて、「薩摩焼の里」として知られる日置市の美山をはじめ、指宿の「指宿長太郎焼」や姶良の「龍門司焼」、種子島の「能野焼」など、産地によっても異なる光沢や模様を楽しむことができます。
鹿児島ならではの酒器と言えば「黒ぢょか」です。薩摩焼酎マークのモチーフにもなっている黒ぢょかは、そのどっしりとした形状から、桜島をイメージしたのでは、とも言われているそうです。「ちょか」は鹿児島の方言で急須のこと。雰囲気もさることながら機能性にも優れていて、弱火でじっくりと火を入れることで、焼酎の香りがふわりと立った「ぬる燗」を楽しむことができます。また遠赤外線効果により、焼酎の味わいがまろやかに変化するため、前割り焼酎を楽しむのにも最適です。
円錐状のぐい呑み「そらきゅう」も鹿児島ならではの酒器。「そらっ!」と注がれ、こぼれないうちに「きゅーっ!」と飲み干すことからその名が付いたと言われています。
中には、内側に「お湯:焼酎=6:4」を示すラインが入った便利な商品も。日常的に使えるような手頃な価格の商品も増えています。
薩摩切子
薩摩焼と同じく江戸時代後期、薩摩藩主・島津斉彬の命により誕生した薩摩切子は、一時は生産が途絶えるも、100年の時を経て1985年に復元を果たしました。透明なクリスタルガラスに色ガラスを被せてカットを施し、「ぼかし」と呼ばれるグラデーションの美しさを生み出しています。紅・藍・緑・黄・金赤・紫・ルリの7色が復元され、さらに近年では「2色被せ」や黒も登場するなど、世界を魅了しています。
定番のロックグラスに大き目の氷を入れてオンザロックを楽しんだり、猪口でストレート、トールタンブラーで炭酸割を楽しんだりと、用途に合わせて幅広い形状のものを選ぶことができます。
薩摩錫器
江戸時代に錫鉱山が発見され、明治時代から生産が盛んになった「薩摩錫器」。今では国内でも鹿児島に残る2軒だけが伝統の技を受け継ぎ、製造を続けています。ずっしりとした重量感があり、上品な光沢は使い込むほどに味わいを増す錫器。錫は焼酎をまろやかな味わいにするとも言われています。ロックや水割り用のグラスとして、錫器ならではのひんやり感を楽しむのがおすすめです。
酒器の周辺を彩るアイテムもご紹介します。
屋久杉製品
樹齢1000年以上の「屋久杉」。屋久島では明治の頃からノミでくり抜く製法で作られてきましたが、鹿児島市で昭和30年代になってから、本格的なロクロ挽きによる製品が作られるようになったとのことです。木目の美しさや香りを楽しめるコースターはいかがでしょう。酒器としては、熱伝導率が低いため、ロックや水割りなどがぬるくなりづらいという特徴もあります。
竹製品
日本一の竹林面積を誇る鹿児島では、800年も前から竹を使った日用品が作られてきました。竹は断熱性が高いため、ロックからお湯割りまで、どんな飲み方にも対応できます。結露がつきにくいので、アイスペールやトングなど小物としても優秀です。
本場大島紬
1300年の歴史と伝統を誇る奄美大島の絹織物「本場大島紬」。近年は、泥染めだけでなく白大島や色大島などデザインも多彩で、着物以外にもファッション小物や雑貨など、日常的に使えるさまざまなアイテムが作られています。酒器にまつわるアイテムとしては、コースターや「マイお猪口」を入れる巾着袋などが作られています。
酒器の選び方
どんな酒器であっても自分がおいしいと感じるものが一番ですが、以下の表を参考に、焼酎の味わいを比べてみるのもおすすめです。
飲み方 | 形状 | 作り方・特徴 |
ストレート | お猪口、 そらきゅう |
常温で注いで。本来の風味と旨さを堪能しましょう。 |
オンザロック | ロックグラス | 大きめの氷を入れて。少し水を足しても◎。キリッと冷えたなめらかな飲み口と、氷の溶け具合で変化する味わいを楽しんで。 |
水割り | ぐい呑み、 タンブラー |
焼酎6:水4を目安に好みの濃さで割って。やわらかい口当たり。 |
お湯割り | ぐい呑み、 お猪口 |
お湯を注いでから焼酎を注いで。旨みや甘み、香りが一層引き立ちます。 |
炭酸割り | タンブラー | 氷で冷やしたグラスに焼酎、炭酸水を注いだら静かにひと回し。爽やかな風味。 |
ちなみに、鹿児島では各蔵元が銘柄をデザインしたお湯割りグラスを作っていて、地方の居酒屋に行けば、その地域の代表銘柄が入ったお湯割りグラスがよく出てきます。お湯と焼酎の割合を示す6:4などの目盛が入っていることから、「ロクヨングラス」とも呼ばれています。
さて、今宵はここまで。お気に入りの酒器を片手に、焼酎をより深く、味わってみてくださいね。
協力:鹿児島県特産品協会(鹿児島ブランドショップ)/切子と酒器を愉しむBar すけ
※本記事の情報は、取材当時のものです。